“Distance Describes Devotion” 制作後記

memexのぴぼです。

memex VR Performance “Distance Describes Devotion” at SANRIO Virtual Festival 2023 を終えました。
現地にご来場頂いた皆様、配信をご覧頂いた皆様、誠にありがとうございました。
本エントリでは制作後記として、本パフォーマンスに込めた願いを、より深くお伝えできればと思います。

なお、YouTubeにてアーカイブ映像を公開しております。まだパフォーマンスをご覧になっていない方は、是非一度ご覧頂けますと幸いです。

また下記日程で、VRChatにてタイムシフト(再上演)が行われます。こちらも是非ご確認下さい。
1/29(日) 0:10PM~
1/30(月) 10:50AM~
詳細: https://v-fes.sanrio.co.jp/

はじめに

VR Performance “Distance Describes Devotion” は、SANRIO Virtual Festival 2023という機会を頂いたことで初めて生まれた試みでした。
様々な点でmemexが今まで行ってきた活動とは一線を画しており、それによって今まで取り組めていなかった表現に挑戦することができました。
こういった背景から、memexは今回の取り組みを一貫してパフォーマンスと呼称しています。
このような貴重な機会を頂いたことを、心から感謝申し上げます。

現在のmemexのスタンス

memexは、「未来を実装するバンド」を標榜しています。
世に広く届けることを目指した音楽 = ポップソングの制作をしながら、「望む未来への漸近」をテーマにメタバースでの音楽活動を行っています。
本パフォーマンスにおいても、memexの音楽を来場者、視聴者の皆様に楽しんでもらうことを大前提として、memexのありたい姿を示すことを目指しました。

書き下ろし部分の制作意図

パフォーマンスは下記のセットリストを進行する形で行いました。

  • Introduction
  • M1 Observer Effect
  • M2 Breathing Trigger Interactive
  • M3 heterodoxy
  • M4 Altarage

このうち、「Introduction」、M1「Observer Effect」を本パフォーマンスのために書き下ろしました。
この2点の制作意図をお伝えしたいと思います。

Introduction

Introductionは、文字通りパフォーマンスの導入となるポエトリーリーディングです。
「世界観」と「memexの活動におけるテーマ」の提示を意図して制作しました。

世界観

計算機上の実質的現実空間
この世界は 願いによって駆動する

強い願いは 法則すらも書き換える
音も光も 願いから生み出される
わたしたちの願い それが世界となる

VRChatにおいて、基本的にすべてのワールドは創作者がUnity EditorとVRChat SDKを用いて制作した通りにのみ存在します。よってその世界がどんな法則でできていて、どんな音や光が存在するかは、(プラットフォーム固有の制約を受けた上で)、創作者の「こんな世界にしたい」という願いに基づいて決定されます。
今回はB4 CHILL PARKという世界観が既にあるため、そこからわたしたちのパフォーマンス内で変化したり加えられた部分が、わたしたちの願いの表現ということになります。

冒頭部では、こうしたVRChatの根底にあるルールを説明しつつ、建物のワイヤーフレーム化などを行い、実際に世界を書き換えています。
そして、この変化がわたしたちの願いによって生まれていることを説明しました。

memexの活動におけるテーマ

まだ見ぬ夢を この先の世界を 願い続けることで
わたしたちは 未来を実装する

memex 始めます

変化を生み出す核となっているわたしたちの願いとは「望む未来への漸近」です。
ここではmemexの目的意識を共有するとともに、これから行うパフォーマンスがその一環であることを宣言しました。

M1. Observer Effect

Observer Effectは、インタラクティブミュージックの手法を用いたポップソング(Interactive Pop Song)です。Interactive Pop Songという語についてはのちほど詳説します。

コンセプト

本楽曲は「望む未来への漸近」の一環として、インタラクションを取り入れることを前提に制作を始めました。
歌が主体のポップソングに対し、詞のメッセージを補強するようなインタラクションにするべく、表現したいコンセプトを模索しました。
ピューロランドのバーチャル領域における取り組みを改めて見直し、「繋がり」を表現することへのこだわりや、SANRIO Virtual Festival 2023のテーマとなっている「コミュニケーション」から着想を得ました。
最終的に「同じ瞬間、同じ場に集った人々によってその場だけに生まれた関係性」を楽曲のコンセプトとしています。

VR空間に集うことの尊さ

詞の前半には「VR空間に集うことの尊さ」についてのメッセージを込めました。

わたしたちは願う
ここにいたいと願う
故に わたしたちはここに在る

わたしたちは願う
わたしたちは集う
わたしたちは繋がる
そうやって わたしたちは生きている

時計の針が動き出す
同じ時間を共有する
今ここにいるわたしたちの
わたしたちだけの世界が始まる

VRChatにおいて、ワールド(のインスタンス)を動かすプロセスはユーザーがいる間にしか実行されません。
ユーザーの「ここに存在したい」という願いに答える形でワールドは存在し、ユーザーは願うことでその場に存在できます。

そして、(機能を把握していない場合を除いて)意に反して他のユーザーに出会うことはありません。
この世界で誰かと出会うとき、それは集うこと、他者と繋がることを願ったからに他なりません。

パフォーマンスが行われるこの世界が、そうして繋がったわたしたちだけのものであることを説明する部分となります。

関係性と距離感

インタラクションの詳細についてはこちらの動画で解説しておりますので、是非ご覧ください。

インタラクションの設計にあたって、コンセプトを補強した上で、「この場に他ならぬ自分が居合わせてよかった」という気持ちになってもらえるよう心がけました。

コンセプトを更に掘り下げ、「関係性は人々の距離感に現れる」と考えたことから、エコーロケーションをインタラクションのモチーフにしました。
エコーロケーションとはコウモリなどが行う行動で、自ら音を発し、その反響を聴くことで周囲の物体との距離をセンシングする行動です。

どのような状況においても、生成される音楽がmemexのポップソングとして出力する歌に相応しい伴奏となるよう、いくつかの音楽的な制約を加えることでインタラクションを仕上げました。
音楽的な制約とは、例えば八分音符間隔で生成する音のタイミングを補正(クオンタイズ)することなどです。

詞の中盤では、わたしたちだけの関係性を創り上げたいというメッセージを込めました。
また、パフォーマンスタイトルの “Distance Describes Devotion” はこの部分から取っています。

声が響いて あなたに届く
その反響が あなたとの距離を描く
このリズムは わたしたちそのもの

今繋がるための歌
反響していく声が
君との距離で描く
ここにしかないストーリーを

君の音を聴かせて
ここに わたしたちのストーリーを

文化の興りへの願い

詞の終盤にはパフォーマンスを総括するメッセージを込めました。

文化を興す大河の下
分け合うために
伝えるために
願われたこの場で
わたしたちは 共に夢を見よう

「文化を興す大河」や、「分け合う」「伝える」、という表現は、サンリオの社名の由来や、ピューロランド内のメッセージから特にシンパシーを感じる部分を引用しました。
memexは「望む未来への漸近」をテーマに活動をしていますが、それは文化の興りを願うのと同様の行為だと考えています。
このパフォーマンスを通して、memexを応援して下さる方々にそういった姿を見せ、未来への願いを伝え、分け合って共に夢を見たいという気持ちを書きました。

Interactive Pop Songという造語の意図

https://twitter.com/memex_am/status/1609528758108844032?s=20&t=lp5rxFU5gQE_rBTo7P1Uzw
パフォーマンスの告知にあたって、Interactive Pop Songという造語を用いました。
この造語はそのまま、インタラクティブミュージックを用いたポップソング、という意味です。

インタラクティブミュージックとは、鑑賞者の行動によって音楽が動的に変化する表現技法・表現形態のことで、主にビデオゲームの領域で(消費者側は無意識でも)広く用いられています。

今回制作したInteractive Pop Song「Observer Effect」も、インタラクティブミュージックに内包されるものです。
そこであえてインタラクティブミュージックではなく、Interactive Pop Songという造語を使った理由は2つあります。
  1. 歌が主体のポップソングであることを強調するため
  2. ポップソングを進化させる道具としてのインタラクションの可能性を伝えるため

歌が主体のポップソングであることを強調するため

インタラクティブミュージックはいまのところビデオゲームのBGM、つまり他の主体を装飾する音楽における表現技法として語られることが多い言葉です。
Interactive Pop Songという造語を用いることで、BGMとは異なり、歌そのものがコンテンツの主体であることをポップソングという言葉で強調する意図がありました。
「Observer Effect」が歌を主体とするポップソングであり、それを補強する役割としてインタラクションが存在していることは、アランの歌声によって明白になっていると考えています。

ポップソングを進化させる技法としてのインタラクティブミュージックの可能性を伝えるため

「Observer Effect」の表現形態にInteractive Pop Songという造語を与え、ポップソングを進化させる技法としてのインタラクティブミュージックの可能性を少しでも世に広めたいという意図がありました。

過去、録音技術によって音楽は繰り返し再生可能なものになりました。
録音するメディアは、レコード、カセットテープ、CDのように、技術と共に進化し、ポップソングもその時代に普及したメディアに合わせ(ある種適者生存的に)進化してきた歴史があります。

しかし、音楽を録音し流通させ、作品を誰もが再生できる状態にすることは、録音すること、メディアを生産すること、流通させることのそれぞれにハードルがあり、誰にでも開かれたものではありませんでした。
その状況を大きく変えたのが、DTMと動画共有プラットフォームの普及です。
音楽を録音し流通させることは誰にでも開かれた行為となり、そうやってできた作品を楽しむことが当たり前になりました。ポップソングがそこに生まれた文化によって大きく変化したことは言うまでもありません。

そして現在、誰でも利用可能なゲームエンジンと、作品を簡単に共有できるプラットフォームの普及によって、インタラクティブミュージックを作って流通させること、それを楽しむことが開かれた行為になりつつあります。

こうした状況から、現在音楽を制作しているアーティストも、これから始めるアーティストも、インタラクティブミュージックを有効な表現の選択肢として持つ未来が到来し得る、と考えています。

(より広い視点で言えば「体験」を制作し、それを流通させることができるようになった、ということですが、とりわけインタラクティブミュージックが既存の音楽制作を行うアーティストにもたらす影響が大きいと考えているため、領域を絞った話にしています。)

多くの人に注目されるイベントであるSANRIO Virtual Festival 2023でInteractive Pop Songを披露することで、現在の音楽アーティストの活動フォーマットの延長線上にこうした進化の可能性があることを示したいと考えました。
今回のパフォーマンスによって、そういった文化が興る未来に少しでも近づけていることを願っています。

おわりに

SANRIO Virtual Festival 2023 にて繋がってくださった皆様へ、memex一同感謝申し上げます。

SANRIO Virtual Festival 2023 運営チームの皆様には、この素晴らしい舞台でパフォーマンスする機会を頂き、またInteractive Pop Songを始めとした様々な表現を受け入れて頂きました。
イベント全体に一貫して存在した、カルチャーに寄り添い、共に育もうとする姿勢に勇気を頂きました。

そして日頃よりmemexを応援してくださっている皆様のおかげでこのイベントを迎えることができました。

ここで頂いた数々の物語を抱き、まだ見ぬ夢を、この先の世界を願い続けていきます。
これからもmemexをよろしくお願いします。

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