仮想現実警察と「本質」

仮想現実警察

仮想現実警察という言葉をご存じだろうか。
仮想現実警察とは、バーチャルリアリティを仮想現実と訳する例に対し、「バーチャル」の正しい訳は「仮想」ではないことを説く人々の総称である。
(ネットスラングに理解のない人のために一応書いておくと、〇〇警察、というのはネットスラングの一種である。他にはクソリプ警察テレキャスター警察などがある。)

仮想現実警察という言葉自体は言ってしまえば内輪ノリでしかないのだが、「バーチャルの和訳として仮想は適切でない」ということの根拠である、「バーチャルの正しい意味」が重要な意味を持つと考えるため筆を取った次第である。

(誤用が広まるうちに正しい意味として定着してしまうのは必然と言える。これは仮想という言葉を使わないでほしいというエントリではなく、望ましい「本質」は人によって異なるというエントリである。)

「仮想」は誤訳である

「 バーチャルの和訳として仮想は適切でない」 という信仰を持つ人々がそのソースとして挙げるのが書籍「バーチャルリアリティ学」や、日本バーチャルリアリティ学会Webサイトのページ「バーチャルリアリティとは」である。virtualの本来の意味についてや、仮想がなぜ適切ではないかが記されており、ぜひご一読いただきたい。ちなみにバーチャルの訳として「仮想」が広まってしまった歴史的背景にはこういう事情があると言われている

バーチャルリアリティについて、日本バーチャルリアリティ学会Webサイトのページ「バーチャルリアリティとは」から一部抜粋して引用する。

バーチャルリアリティのバーチャルが仮想とか虚構あるいは擬似と訳されているようであるが,これらは明らかに誤りである.バーチャル (virtual) とは,The American Heritage Dictionary によれば,「Existing in essence or effect though not in actual fact or form」と定義されている.つまり,「みかけや形は原物そのものではないが,本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」であり,これはそのままバーチャルリアリティの定義を与える.

日本バーチャルリアリティ学会 » バーチャルリアリティとは

つまり,それぞれのものには,本質的な部分があってそれを備えているものがバーチャルなものである.

日本バーチャルリアリティ学会 » バーチャルリアリティとは

この定義に従えば、バーチャルリアリティ空間の意味は「みかけや形は現実空間そのものではないが、本質的あるいは効果としては現実空間である空間」となる。ちなみにバーチャルYouTuberは、バーチャル(な肉体を持った)YouTuberの略であると考えると説明がつく。(参考:Virtual Body YouTuber)

人によって異なる本質

本質は人によって異なる。あなたにとって「現実の本質」はなんだろうか?「人間の本質」はなんだろうか?「社会の本質」はなんだろうか?

味こそが本質であるとするなら、醤油をかけたプリンはバーチャルなウニと言えるのか?見た目や、食されるまでのストーリーを本質と見做すならそれはウニではないと言えるだろう。

様々なVRサービス・VRコンテンツが備える「本質」には、製作者の意図が色濃く反映されている。
それぞれのサービスの提供する「本質」を、望ましく感じるユーザがそのサービスに集まっている。

だから全ての本質を備える究極の何かが生まれない限り、今のバーチャルにまつわる文化は多様性を加速させると思う。同じ「本質」を目指さないのであれば、そもそも競合しないからだ。

「自分の信じる本質こそがVRだ」と信じてやまない人々が、「それはバーチャルではない」と「VRという言葉」を奪い合う様子を目にすることがある。

わたしにとってのVRと、あなたにとってのVRは違う。
お互いに尊重し、各々豊かなVR生活を楽しむことができればと、切に願う。

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