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はじめに
memexで作曲と開発を行っているぴぼです。
ボーカルのアランと2人組で、VRライブを中心に活動しています。
この記事は、memexが開催した「VR音楽活動のススメ Advent Calendar 2020」の最終日の記事です。
「VR音楽活動のススメ Advent Calendar 2020」は、「ソーシャルVRプラットフォームでユーザーとして行える音楽活動に関すること」を一日交替で書いていく企画です。
これはVRの世界で音楽活動をする人々がたくさんいるんだよ、ということをもっと外の世界の人に知ってもらいたいと思って始めた企画でした。
12/1にスタートし、今日12/25まで、たくさんの記事が公開されました。ご参加頂いた皆様、本当にありがとうございました。
たくさんの方の活動にかける思いや、活動のテーマについて深く触れることができました。また、知らなかったたくさんのコミュニティや表現方法を知ることができました。これからの活動をする上で、とても刺激になりました。
もしまだ未チェックでしたら、是非一度回って頂けると幸いです。下記ページから参加記事のタイトル一覧を見ることができます。
https://adventar.org/calendars/5572
概要
この記事では何故VRライブに惹かれるのかと、VRライブに見る夢を実現させるため、なるべく心がけたいと思っているVRライブの作り方、とりわけVR空間の作り方を紹介します。
なお、VRライブには様々な定義がありますが、ここでは観客が「自らがそのCG空間内に居ると認識できる」ライブのような意味で扱います。あまり厳密性のない定義ですが、つまり物理会場に依存するものや、配信ライブを除くということです。
何故VRライブに惹かれるのか
私がVRライブに惹かれる最大の理由は、届けたい価値に特化した世界でライブが行えるからです。
VR空間を作るときは、無数の選択肢を選んでいくことになります。
例えば選択肢の例として、「世界の物理法則の設定」があります。
- 音は目に見えるか?
- 人は空を飛べるか?
- 観客は声を出せるか?
- 観客は演者以外の人を認識できるか?
無数の選択肢を、「目的に沿うか?」という基準で選択していくと、その世界はその目的のためだけに存在する世界へ収束していきます。
良いライブを行う上で、お客さんに届けたい価値に特化した世界でライブを行うことは最高の手段の一つだと考えています。
VRライブの作り方
こんな手順で作るようにしたいな、と思っています。
- テーマを決める
- 選択肢を探す
- やらないことを決める
- 作り終わらなさそうならテーマを見直す
- 完成
最初は過去の制作について書こうと思ったのですが、手法とテーマにあまりに汎用性がなかったのでなるべく一般化できる部分をお話ししようと思いました。
これまで、完成して世に出せたものより、完成しなかったものの方が多いので、とくべつ完成させることを重要視していることを予めお伝えしておきます。なので、お恥ずかしながら「できていること」ではなく、反省から「こうしておけばよかったな」と思っているだけのことも多いです。
テーマを決める
まずライブの根幹となるテーマを決めます。テーマは膨大な選択肢の判断基準になり、一貫性のある創作に寄与します。
自分がどんなライブを作りたいのか言語化できないときは、「自分が観客としてライブに期待するもの」から考えるようにしています。
ライブを観に行くとき、何を期待しているのか。
良いライブだな、と感じた時、何に対してそう思ったのか。
あまり良くなかったな、と感じた時、何が不足していたのか。
- 好きな曲を生演奏で聴けること
- 音に合わせて身体を動かすこと
- 尊敬する人を自分の目で捉えること
- 表現手法が新しいこと
- 何かに参加しているという実感を得ること
- 演者がとても楽しそうなこと
- 演者の成長を感じられること
- たくさんの同じ趣味の仲間の存在を感じられること
- 終わった後にお酒を飲みながら同行者と感想を語り合うこと
ライブをしたいと思ったとき、きっとなにか伝えたいことや、過去の体験から憧れた対象があるのではないかと思います。なるべくそれを言語化してテーマに据えるようにしています。
選択肢を探す
多くの選択肢から選ぶほどその世界を目的に特化させることができるので、選択肢を増やす必要があります。これに関してはテーマを決めてから調査する方が効率的ではありますが、どうしても漏れがあるので、なるべく普段からVRライブを作るうえで自分が利用できそうな未知のノウハウがないかは常に目を配るようにしています。
具体的には個人・企業問わずVRライブや、話題になったワールドについて、そこで何が発生したかを把握するようにしています。ただ、すべてを自分で体験することは時間的にどうしても難しいので、その対象についてTwitterでパブリックサーチをすることにしています。体験しないとよくわからないな、と思った場合は直接向かっています。
このアドベントカレンダーに特にそういった意図はありませんでしたが、技術に比べて共有する機会が少なく、普段知ることのできない運用面のノウハウをたくさん学ぶことができてとてもありがたかったです。この世界で音楽をしている人々の様々な届けたい価値と、それを実現するための選択が多く記されているので、とても参考になります。
やらないことを決める
見つけた選択肢の中から、「やること」ではなく「やらないこと」を決めます。
先ほど述べた通り、VRライブを作る上では、無数の選択肢を選んでいくことになります。
選択肢を「目的に沿うか」という観点で分類すると次の3種類があります。
- 目的に沿うもの
- 目的に沿わないもの
- 判断がつかないもの
いざVRライブのための空間を作ろうとすると、大量の「判断がつかないもの」に悩まされることになります。
テーマが曖昧なほど、「判断がつかないもの」は増えます。
そして「判断がつかないもの」は、優先度付けが非常に難しいです。
「判断がつかないもの」は、更にこんなふうに分類できます。
- やると楽しそうなもの
- やっても楽しくないもの
- 明らかにメリットがあるもの
- メリットがあるかもわからないもの
- 本当は重要なもの
- 本当にいらないもの
制作作業に入ると、まずは「目的に沿うもの」からこなして、時間があれば「判断がつかないもの」に手を付けていきます。
そのとき、その中でも「やると楽しそうなもの」「明らかにメリットがあるもの」から手を付けてしまうのです。「判断のつかないこと」がすべて期間内に終わることは経験上少なく、「本当は重要なもの」があとから見つかったりします……
なので、「目的に沿うもの」「判断がつかないもの」をはじめから全て行うつもりでスケジュールを組みます。
目的に沿う選択の例
抽象的な話が多いので、目的に沿った選択の具体例を少し挙げてみます。
- 音の情報量を増やしたい→音が目に見える世界にする
- 皆でその場を作りたい→お客さん自身に演出になってもらう
- お客さんと感情を共有したい→お客さんの声が響く世界にする
- 自分の意図通りに音を伝えたい→自分以外音を出せない世界にする
- 自分だけを見て欲しい→自分以外目に映らない世界 / 2人しか存在できない世界にする
作り終わらなさそうならテーマを見直す
「判断がつかないもの」を全てやるコストが捻出できない場合、テーマを解体します。これが完成させる上で最も重要なことだと今のところ考えています。
やりたいことが実現できない場合、何かをあきらめる必要があります。その時、テーマの芯の部分をブレさせずに、うまいこと見直したいところです。
このままだと完成しないな…と思った時はテーマを「何故それを表現したいのか」という観点で深堀りすることで、テーマの範囲を狭くして、「目的に沿うこと」「判断がつかないこと」=タスクの総量を減らすようにしています。
(もちろん、理想の状態で完成するまで世に出さない!という選択もあると思います)
「#解釈不一致」の例
実際の例を挙げると、memexのワンマンライブ「#解釈不一致」では、memexの2人の姿が、常にメッシュにノイズが混じったものになっています。
最初は「複数インスタンスに同時に存在する」ということをテーマにしていたため、「判断がつかないこと」の「明らかにメリットがあるもの」としてノイズが発生しない方法を模索していました。
が、これは解決するのが難しいなと感じたので、テーマの解体を行いました。
「複数インスタンスに同時に存在する」を何故表現したいのか?と考えた結果、「人それぞれ異なる”自分に対するイメージ”、そのものになりたかったから」であると気づきました。
それを踏まえると、「ノイズが発生しないようにする」ことは目的に沿っていないのではないか、と判断を改めました。「誰が見ても同じように見える」ことは「人それぞれ異なる”自分に対するイメージ”」を表現することと相反するように思えたからです。
その結果、メッシュにノイズが混じることは許容したままになりました。
完成
やることが可能な範囲に収まると、手を動かすと完成します。
おわりに
この記事をまとめると、重要なのは完成させるためにどうやってやることを削っていくか?だという話になりそうです。
それだけだと夢がないので夢の話をします。
この自由度が高い世界で夢を実現するには、膨大なコストがかかります。だからコストを抑えることは重要なことです。
それでも、夢を実現するにあたって「これだけは絶対に譲れない」ということが出てきます。
絶対に譲れないけど実現可能な限界を超えているのなら、限界を突破するしかなさそうです。
限界を突破するよい方法は、この世界を盛り上げることだと思っています。
人が増えるほど一人が担うコストは減って、実現可能な領域は広がっていくからです。
この世界のことを少しでも多くの人に伝えて、興味を持つ人の輪を広げて、表現をする人にとって魅力的な世界を構成する一助になれたら幸いです。
そして、新たに訪れた人々を巻き込んで、より大きい夢を見ていけたら、とても楽しそうです。
最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。
VR音楽活動のススメ Advent Calendar 2020